こんにちは、小島一浩です。
年金シリーズも6回目になりました。今回は障害年金について整理しようと思います。
なお、具体的な年金額との数値につきまして2025年度のものを用いています。
公的年金が守ろうとしている3つのリスク
公的年金の給付内容は、大きく3つに分かれています。
老齢給付、障害給付、遺族給付です。
国は、この3つのリスクについては、個人や家族だけの努力や、民間保険だけに任せてしまうと、どうしても守りきれない人が出てしまうと考えています。
そこで、公的年金というかたちで「老齢」「障害」「遺族」の3つの給付を用意し、誰にでも共通するルールで、最低限の生活を支える仕組みをつくっています。
逆に言えば、公的年金がカバーしているのは、この3つのリスクに限られます。
それ以外の部分は、企業年金や個人年金、貯蓄などで補ってください、というのが国の基本的な設計思想だと言えるでしょう。
老齢給付については、すでに老齢基礎年金と老齢厚生年金の記事でお伝えしましたので、今回は2本目の柱である「障害給付」に焦点を当ててお話しいたします。
傷病手当金から障害年金へ
障害年金の話は、ある日突然の「働けなくなった場面」から始まります。
病気やけがで会社を休まざるを得なくなったとき、多くの方が最初にお世話になるのは健康保険の傷病手当金です。
会社を休んでいる間の所得の一部を補う、いわば「短期間」の保障と言えます。
一方で、傷病手当金には支給される期間の上限があります。
一般的には、支給が始まってから最長で1年6か月までです。
問題は、その1年6か月が経過しても、なお元のようには働けない場合です。
ここで登場するのが、公的年金の「障害給付」、つまり障害年金です。
国の設計としては、まずは健康保険の傷病手当金で比較的短期間の休職期間を支え、それでも改善せず、長期的に就労が難しくなったときに、障害年金で生活を支えるという二段構えで、現役世代の所得喪失リスクに備える仕組みになっています。
このように見ると、障害年金は老齢年金の単なるおまけではなく、「働き盛りの人が長期的に働けなくなったときの公的なセーフティネット」として、傷病手当金より先の期間の保障の役割を持っていることが分かります。
そして老齢給付とは異なり、障害年金は年齢に関係なく、若い人であっても条件を満たせば受け取ることができる点が、大きな特徴と言えます。
仕事のけがを支える労災と障害年金の役割分担
ここまでで、健康保険の傷病手当金から、公的年金の障害年金へとつながる流れを見てきました。
実際の現場では、ここにもう一つ、「仕事や通勤が原因のけが・病気」を支える制度として労災保険が関わってきます。そこでまず、「労災保険」と「障害年金」がどのように役割分担をしているのかを整理しておきます。
労災保険は仕事や通勤が原因のけが・病気を補償する
労災保険(労働者災害補償保険)は、仕事中や通勤中のけが・病気、仕事が原因で生じた障害や死亡について、事業主が本来負うべき補償を、国が保険の形で行う仕組みです。
ここでのポイントは、「仕事や通勤との因果関係」があるかどうかです。
- 業務災害
仕事中や、仕事に密接に関連する行為の途中で起きたけがや病気のことです。工場での事故や営業中の交通事故、長時間労働との関連が認められる脳・心臓疾患や精神疾患なども、条件を満たせば業務災害と判断されることがあります。 - 通勤災害
自宅と職場の間を、合理的な経路と方法で往復する途中のけがなどを指します。途中で日用品を買うなど、一定範囲の寄り道をしながらの移動も、要件を満たせば通勤と見なされます。
このどちらかに当てはまれば、治療費、休業中の所得、障害や死亡に対する補償などを、労災保険がカバーします。
障害年金は公的年金に加入中の病気やけがによる障害を支える
一方、障害年金は、仕事が原因かどうかにかかわらず、「公的年金の被保険者である期間中に初診日がある病気やけが」によって、一定以上の障害状態になったときに支給される年金です。
- 初診日の時点で国民年金に加入していれば、障害基礎年金
- 初診日の時点で厚生年金に加入していれば、障害厚生年金(あわせて障害基礎年金も)
というように、「そのとき、どの年金制度に入っていたか」で、受けられる障害年金の種類が決まります。
ここでは、原因が仕事か、私生活上の病気やけが(私病)かは問いません。
私病の場合と、厚生年金・国民年金の違い
私生活上の病気やけが、いわゆる「私病」は、労災保険の対象にはなりません。
ただし、障害年金の側では次のように扱われます。
- 厚生年金に加入している期間中の私病
条件を満たせば、障害厚生年金(あわせて障害基礎年金)の対象となります。仕事上のけがか私病かを問わず、「初診日が厚生年金加入中かどうか」がポイントです。 - 厚生年金に加入していない期間中の私病
条件を満たせば、障害基礎年金のみの対象となります。自営業やパートタイムなど、国民年金だけに加入している人はこちらに当てはまります。
このように、「仕事が原因かどうか」でみるのが労災保険、「いつどの年金制度に加入していたか」でみるのが障害年金、と整理しておくと、二つの制度の役割分担が分かりやすくなります。
労災保険の主な給付と1年6か月の節目
労災保険では、けがや病気の発生から、その後の障害や死亡に至るまで、状況に応じた給付が用意されています。代表的なものを挙げると、次のようになります。
- 療養(補償)給付
労災に伴う治療費を、原則として自己負担なしでまかなう給付です。 - 休業(補償)給付
労災のけがや病気で働けず、賃金が支払われなかった日について、その一定割合を補償します。通常、休業4日目以降が対象です。 - 障害(補償)給付
治療が一段落したあとも障害が残った場合に、その程度に応じて一時金または年金を支給します。 - 遺族(補償)給付・葬祭料
労災により労働者が亡くなった場合に、その遺族へ年金や一時金を支給し、あわせて葬祭費用を補う給付です。
労災保険でも、療養が長期化する場合には「1年6か月」が一つの区切りになります。
- 労災による療養が始まる
- 原則として、療養開始から1年6か月が経過する
- なお治癒しておらず、一定の重い傷病状態が続く
このような場合には、「傷病等級」に応じて、傷病(補償)年金への移行を検討します。
傷病(補償)年金は、傷病等級と給付基礎日額をもとに支給額が決まり、代表的には次のような水準になります。
- 傷病等級1級
給付基礎日額の313日分が1年分の年金として支給されます。 - 傷病等級2級
給付基礎日額の277日分が1年分の年金として支給されます。
ここで「313日分」「277日分」という具体的な日数を用いることで、休業補償の延長ではなく、長期の所得補償としての年金にステージが変わることが分かります。
1年6か月という節目と障害年金
障害年金でも、初診日から1年6か月という期間が重要になりますが、意味合いは少し違います。
- 障害年金
初診日から1年6か月経過時点(またはそれより前に症状が固定した時点)で、その時点の障害状態を基準に、障害年金の受給権があるかどうかを判定する節目となります。 - 労災保険
療養開始から原則1年6か月が経過してもなお治癒していない重い傷病の場合、傷病等級に応じて、給付基礎日額をもとにした傷病(補償)年金への移行を検討する節目です。
同じ「1年6か月」でも、労災側は給付の種類が変わる目安、障害年金側は年金の権利があるかどうかを判断し始める目安として使われている、と押さえておくと、時間軸のイメージもつかみやすくなります。
では、障害年金の説明に戻ります。
障害年金には2つある
傷病手当金の支給が始まってから1年6か月を経過しても、なお元のようには働けない場合に登場するのが障害年金です。
この障害年金には、大きく分けて次の二つがあります。
- 障害基礎年金
- 障害厚生年金
障害基礎年金は、国民年金に相当する部分で、自営業の方やフリーターの方、専業主婦・主夫の方なども含めて、国民年金の被保険者であった人が対象になります。
一方の障害厚生年金は、会社員や公務員など、厚生年金保険に加入していた人を対象とした上乗せ部分です。
どちらも「障害」という同じ出来事に対する給付ですが、加入していた制度や働き方によって、受けられる年金の種類や水準が変わってきます。
障害年金の受給要件3本柱
障害基礎年金と障害厚生年金には違いがありますが、受給要件の考え方は、大きく次の3つの柱で整理できます。
- 初診日にどの年金制度に入っていたか
- 保険料納付要件を満たしているか
- 障害の程度が一定以上かどうか
この3つを満たすかどうかで、「障害年金を受け取れるかどうか」が判断されます。
初診日という考え方
ここでいう初診日とは、その障害の原因となった病気やけがで、はじめて医師または歯科医師の診療を受けた日のことを指します。
大事なポイントは二つあります。
ひとつは、自覚症状が出始めた日ではなく、その症状について医療機関を最初に受診した日であること。
もうひとつは、自分の記憶ではなく、医療機関のカルテなど「医療記録」で確認される日であることです。
障害年金では、この初診日の時点でどの年金制度に加入していたかによって、障害基礎年金だけが対象になるのか、障害厚生年金も含めて受給できるのかが変わってきます。
また、保険料の納付要件を満たしているかどうかを判断するときの起点にもなるため、「いつ、どの立場で、どの制度に入っていたときに発病したか」を決めるアンカーのような役割を果たしています。
実際の手続きでは、初めて受診した医療機関に「受診状況等証明書」を作成してもらうなどして、この初診日を確認していくことになります。
保険料納付要件の基準期間
障害年金では、保険料をどれだけきちんと納めてきたかを見るために、「基準期間」が定められています。基準期間とは、原則として初診日の前々月までの被保険者期間全体を指します。
- 障害基礎年金
初診日の前々月までの国民年金の被保険者期間を通して、保険料がどのように納められていたかを確認します。第1号被保険者や第3号被保険者など、国民年金としての加入歴全体が対象です。 - 障害厚生年金
初診日の前々月までの厚生年金の被保険者期間に、国民年金としての期間も加えた「通算期間」を基準期間として扱います。会社員や公務員であった期間と、自営業や無職の期間とを合わせて、一つの時間軸として見ていきます。
保険料納付要件の内容
保険料納付要件は、「多くの人が保険料を出し合う仕組み」である以上、ある程度は保険料を納めていることを求めるルールです。障害基礎年金と障害厚生年金で、考え方は共通しています。
- 障害基礎年金
初診日の前々月までの国民年金の被保険者期間のうち、保険料を納めた期間と、免除されていた期間の合計が、全体の3分の2以上であることが原則です。
もう一つの見方として、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納が1か月もない場合も、要件を満たしたと扱われます。 - 障害厚生年金
初診日の前々月までの厚生年金・国民年金を通算した被保険者期間について、納付済期間と免除期間の合計が全体の3分の2以上となっているかを確認します。
この場合も、直近1年間に未納がなければよいとする特例があり、障害基礎年金と同じ枠組みで判断されます。
ここでポイントになるのは、「免除期間」も一定の割合で納付済みと同様に扱われることと、直近1年については別枠で未納の有無を見るルールが用意されていることです。
免除期間に含まれる代表的なケース
障害年金の保険料納付要件では、「保険料を実際に納めた期間」だけでなく、「正しく手続きをして免除や猶予が認められている期間」も、未納ではなく免除期間として扱われます。代表的なケースは次のとおりです。
- 所得が低く全額免除になっていた期間
- 半額免除や四分の三免除など一部免除になっていた期間
- 学生納付特例が承認されていた学生の期間
- 若年者納付猶予が承認されていた二十歳代前半の期間
これらはいずれも、「申請をして、免除や猶予として承認されていること」が前提になります。
免除は誰がどう決めているか
保険料の免除や納付猶予は、本人の申請をもとに、公的機関が基準に沿って決めています。
- 本人が、市区町村の窓口や年金事務所などに免除・猶予の申請書を提出する
- その内容と前年所得などをもとに、市区町村や日本年金機構が、法律で定められた所得基準に当てはめて、全額免除・一部免除・納付猶予などの区分を判定する
- 承認された期間だけが、「免除期間」や「猶予期間」として扱われ、障害年金の保険料納付要件を満たす月数に含まれる
一方、申請をせずに保険料を払っていない月は「未納」となり、ここでいう免除期間には含まれないため、この点だけははっきり分けておくことが大切です。
障害等級と対象範囲
障害年金を受け取るには、単に病名が付いているだけでは足りず、「どの程度の障害状態か」を障害等級という形で判定します。
- 障害基礎年金
原則として、1級と2級に該当する場合に支給されます。日常生活のほとんどに常時の介助が必要なほど重い状態が1級、日常生活に著しい制限がある状態が2級というイメージです。3級や障害手当金の枠はありません。 - 障害厚生年金
1級・2級に加えて3級があり、さらに3級に満たない一定の障害については障害手当金(一時金)が設けられています。3級は主に労働能力に着目し、通常の就労が著しく制限される程度の障害が対象となります。
診断書に記載された医学的所見だけでなく、日常生活動作や就労状況など、実際の生活への影響を総合的に見て、どの等級に該当するかが判断されます。
障害基礎年金の年金額
障害基礎年金は、老齢基礎年金と同じく「定額」を土台にした仕組みです。
- 障害基礎年金2級の年金額:831,700円
- 障害基礎年金1級の年金額:831,700円×1.25=1,039,625円
同じ等級であれば、加入歴や収入水準にかかわらず、原則としてこの金額が支給されます。
障害厚生年金の年金額
障害厚生年金は、老齢厚生年金と同様に「報酬比例」の仕組みが基本になります。
- 在職中の標準報酬額
- 厚生年金に加入していた月数
- 給付乗率(法律で定められた係数)
といった要素を掛け合わせて、報酬比例部分の年金額を算出します。
- 障害厚生年金1級(年間):報酬比例の年金額×1.25(+配偶者加給年金額)
- 障害厚生年金2級(年間):報酬比例の年金額(+配偶者加給年金額)
- 障害厚生年金3級(年間):報酬比例の年金額
厚生年金の被保険者期間が300月(25年)に満たない場合、障害厚生年金の計算では、300月としてみなす調整が行われます。
家族に対する加算
障害基礎年金の子の加算
障害基礎年金には、「子の加算」という家族向けの上乗せがあります。
障害基礎年金の受給権を得た時に生計維持関係にある一定年齢未満の子がいる場合、次の金額を上乗せできます。
- 第1子の加算額: 239,300円
- 第2子の加算額: 239,300円
- 第3子以降1人あたりの加算額: 79,800円
障害厚生年金の加給年金
障害厚生年金には、主に二つのレベルで家族向けの加算が用意されています。
1級または2級の障害厚生年金を受ける人に、生計を維持されている一定の要件を満たす配偶者がいる場合に支給されます。老齢厚生年金の加給年金と同様、定額の上乗せです。
子どもについては、障害厚生年金側ではなく障害基礎年金の「子の加算」で扱います。
結果として、障害厚生年金と障害基礎年金、加給年金、子の加算を組み合わせて、家族全体の生活を支える構成になります。
若い世代でも受給できる可能性
障害年金は老齢年金と異なり、「高齢になってから受け取るもの」ではありません。
若い世代であっても、次の条件を満たせば受給の可能性があります。
- 初診日の時点で公的年金の被保険者であるか、あるいは一定の条件を満たす場合
- 初診日までの保険料納付要件を満たしていること
- 障害等級表に定められた一定以上の障害状態に該当すること
障害基礎年金
初診日の時点で国民年金の被保険者であり、保険料納付要件と障害等級の要件を満たしていれば、20代や30代などの若い年齢であっても受給が可能です。
自営業や非正規雇用など、厚生年金に入っていない人のセーフティネットとして機能します。
障害厚生年金
初診日の時点で厚生年金に加入している必要があり、同じく保険料納付要件と障害等級の要件を満たしていれば、若年であっても支給対象となります。
会社員や公務員として働き始めて間もない時期に発病した場合でも、加入歴に応じた厚生年金部分が上乗せされる設計です。
20歳前に初診日がある場合
生まれつきの障害や、子どものころから続く病気などでは、障害の原因となる初診日が20歳より前にあることがあります。こうしたケースについては、20歳前初診として特別な扱いが設けられています。
障害基礎年金
初診日が20歳前であっても、20歳以降に一定以上の障害状態となった場合には、いわゆる「20歳前障害」として障害基礎年金の対象となることがあります。
この場合、保険料を自分で納めていない時期が前提となるため、通常の保険料納付要件は問われません。
障害厚生年金
20歳前の初診日で始まった障害は、原則として厚生年金の被保険者期間とは重ならないため、障害厚生年金の対象にはなりません。
そのため、20歳前初診の場合の公的年金による保障は、障害基礎年金を通じて行われることになります。
まとめ
ここまで見てきたように、障害年金は「老後のための年金」というイメージとは少し違います。
病気やけがで長く働けなくなったときに、傷病手当金の先を受け止める、公的なセーフティネットとしての役割を担っています。
その仕組みは、次のような層で成り立っています。
- まず、初診日を起点として、国民年金だけが関係する障害基礎年金と、厚生年金が関係する障害厚生年金のどちらが対象になるかが決まること。
- 次に、初診日の前までの期間に、保険料を納めてきたか、免除されていたかといった「保険料納付要件」を満たしているかどうかが問われること。
- そして、医学的な状態だけでなく、日常生活や就労への影響も含めて障害等級が判定され、一定以上の等級に該当した場合に、障害基礎年金と障害厚生年金がそれぞれのルールに従って支給されること。
年金額そのものは、障害基礎年金では定額をベースにしつつ、障害厚生年金では報酬比例の考え方を取り入れており、さらに子の加算や配偶者に対する加給年金といった家族向けの上乗せを通じて、「本人の生活」と「家族の生活」の両方を支える構成になっています。
また、20歳前初診の障害については、通常の保険料納付要件を問わない代わりに、障害基礎年金のみで保障するという特別な取り扱いが用意されており、生まれつきや若いころからの障害に対しても、公的年金の枠組みの中で一定の支えを用意していることが分かります。
障害年金は法律の条文だけを見るととても複雑ですが、「誰に対して」「どのタイミングで」「どの制度から」「どの程度の額を」支給しようとしているのか、という視点で整理すると、公的年金全体の中でどんな役割を持っているのかが見えてきます。
この記事が、その全体像をつかむための足場になれば幸いです。
次回は、遺族年金についてお話ししたいと思います。
質問やコメントなどがございましたら、一番下にあるコメント欄もしくは、LINEから友だち追加でLINEへの書き込みでお願いいたします。
お気軽にお問い合わせください。



コメント