こんにちは、小島一浩です。
これから数回にわたって年金についてのお話を続けたいと思っています。
その最初として、そもそも年金制度って大丈夫なの?破綻しないのか?という疑問について一緒に考えていきたいと思います。
年金は本当に破綻するのか?仕組みから考える
「どうせ自分のときには年金なんて出ない」「制度がそのうち破綻するんじゃないか」
そんな声を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
不安の根っこをたどっていくと、日本の年金がどんな仕組みになっているのか、そして少子高齢化の中で本当に維持できるのかが、はっきり見えないことが関係しているように感じます。
今回のブログでは、
- 日本の年金はそもそもどんな仕組みなのか
- 「破綻するのでは?」という不安がどこから来ているのか
- それに対して、制度はどう変わってきているのか
を順番に整理しながら、「年金は破綻するのか?」という問いについて考えていきたいと思います。
🛡 年金は「貯金」ではなく「保険」
多くの人が、年金を自分の老後資金として長い時間をかけて積み立てておく仕組みのように感じていると思います。
けれど、日本の公的年金の本質は、自分のお金をコツコツ貯めておく「積立」ではなく、人生のリスクに備える「保険」というところにあります。
何に備える保険なのか
年金がカバーしているのは、主に次の三つのリスクです。
- 長生きしすぎるリスク
- 障害を負うリスク
- 家族の大黒柱を失うリスク
いずれも、自分ひとりの貯金だけで対応しようとすると限界があります。
いつどれが起きるか分からない「読めないリスク」に対して、みんなで少しずつ保険料を出し合い、リスクが現実になった人をそのときに支える仕組みが、年金です。
なぜ「保険料」と呼ぶのか
もし年金が本当に「自分専用の積立」なら、「積立金」や「預り金」という名前でもおかしくありません。
しかし実際には「年金保険料」と呼ばれています。
年金があくまで「保険」という仕組みで動いているからです。
生命保険をイメージすると分かりやすいですが、
保険料を払っても一度も保険金を受け取らずに終わる人もいれば、払い始めからさほど時間が経たないうちに大きな保険金を受け取る人もいます。
払った額と受け取る額が一人ひとりきっちり一致するわけではありません。
年金も同じで、「払った分をきっちり自分で取り戻す貯金」という部分だけではなく、「長生きや障害、遺族といったリスクに、みんなで備える保険」だという点を、まず押さえておきたいところです。
🏛 年金の本体は「賦課方式」
次に、日本の年金の財源の仕組みを見ていきます。
「自分のお金を自分のために積み立てる」のは「積立方式」と呼ばれるやり方ですが、日本の公的年金の基本はそうではありません。
日本の公的年金は、今働いている人が払っている保険料を、その時点の年金受給世代に回す「賦課方式」が基本です。
イメージとしては、
- 現役で働く人が保険料を払い
- そのお金が、そのときに年金を受け取っている高齢世代に支払われる
という「世代間の支え合い」の仕組みです。
本来の姿だけを極端に描けば、
- ある年の現役世代から保険料を集め
- その年の高齢世代に年金として支払う
という、ほぼ「その年限りのやりとり」で完結します。
「みんなでその年に保険料を出し合い、その年に必要な年金を、みんなで負担して支える」というのが、賦課方式の基本形です。
もちろん、まったく積立がないわけではなく、長期的な安定のための基金などもありますが、土台になっているのはこの賦課方式です。
💰 260兆円の年金積立金は何なのか
ここで多くの人が気になるのが、「年金積立金が260兆円くらいある」という話です。
この数字だけを見ると、
- 「それだけお金があるなら、そこから年金を払っているのではないか」
- 「自分が払った保険料が、そのままその積立金になっているのではないか」
と感じてしまうかもしれません。
しかし、本質的にはそうではありません。
なぜこんなに積み立てがあるのか
大きな理由の一つは、主に昭和の時代には、多くの人が「年金保険料を納めている途中」の世代だったことです。
年金の仕組みでは、原則として、
- 20歳から60歳までの40年間、保険料を納める
- その後、65歳以降に年金を受け取る
という流れになっています。
昭和の頃、多くの人はまだ、
- 40年間フルに納め終わって満額の年金を受け取る世代ではなかった
- 制度を本格的に動かし始めてから、フルの40年を経過していない段階だった
という状況にありました。
そのため長い間、 集めた保険料の総額 > その時点で支払うべき年金の総額
という状態が続き、その差額が少しずつ積み上がっていきました。
その結果としてできあがったプール金が、およそ260兆円規模の年金積立金です。
積立金は「本体の原資」ではなくクッション
ここで大事なのは、260兆円の年金積立金が「年金の本体の原資」になっているわけではないという点です。
年金の土台はあくまで、
- その年の現役世代から集める年金保険料と
- 国が財政から負担する分
で成り立っていて、260兆円の積立金は、その上に載っている「大きなクッション」や「ショック吸収材」のような役割を持っています。
たとえば、
- 景気が悪化して保険料収入が一時的に落ち込んだとき
- 人口構成の変化で、負担と給付のバランスが一時的に崩れたとき
などに、この積立金を取り崩しながら、急激な制度変更や大幅な給付カットを避けるために使われます。
🌍 日本以外の多くの国には「巨大な積立金」はない
もう一つ押さえておきたいのが、海外との違いです。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウエーデンなどの主要先進国でも、公的年金は日本と同じく賦課方式が基本で、「その年の保険料で、その年の年金をまかなう」仕組みになっています。
しかし、日本のように数百兆円規模の大きな積立金を長年かけて蓄えてきた国は、多数派ではありません。
- 海外では、賦課方式だけで回していて、大きな積立金はほとんど持っていない国が多い
- 日本は、賦課方式を基本としながらも、昭和からの長い移行期を通じて大きな積立金を持つことになった、少し特徴的なケース
という位置づけになります。
この違いを踏まえると、「260兆円の積立金があるから安心」というよりも、「日本は賦課方式に加えて、かなり大きなクッションを持っている珍しい国だ」と理解したほうが近いといえます。
🤝 お神輿の担ぎ手が広がっていくイメージ
ここまでで、「保険としての年金」「賦課方式」「積立金」という土台を押さえたうえで、もう一度「誰が誰を支えているのか」をイメージしてみます。
かつての年金の姿は、「若い世代が高齢世代を支える」お神輿にたとえられていました。
下でお神輿を担ぐのは主に若い現役世代で、上に乗るのが引退した高齢世代というイメージです。
若い担ぎ手がたくさんいれば、一人ひとりの負担はそれほど重くありません。
ところが、少子高齢化が進むと、このお神輿のバランスが崩れていきます。
下の担ぎ手である若い世代が減り、上のお神輿に乗る高齢世代が増えていくと、若い人3人で1人の高齢者を支える騎馬戦状態となります。
さらにこのままでは、1人の若い人が1人の高齢者を肩車するような状態となり、若い世代の負担がどんどん増えていく構図になってしまいます。
そこで、日本の年金制度は、このお神輿の担ぎ手を増やす方向に舵を切ってきました。
厚生年金の加入対象を広げたり、高齢者の再雇用を進めたりすることで、パートで働く人、女性、シニア世代など、いろいろな立場・世代の人が一緒になってお神輿を担ぐ方向へと、少しずつ制度を変えてきたのです。
「若者が高齢者を肩車している」ような一方向の支え方ではなく、世代や性別を超えた多様な働き手が一緒になってお神輿を担ぐことで、年金制度そのものを長く支え続けていこうとしている、というのが今の大きな流れです。
🔧 破綻させないための三つの方向性
年金が「保険」であり、賦課方式で世代間の支え合いとして動いている以上、少子高齢化の中で、制度を何も変えずに放置すればいずれ行き詰まります。
そこで、日本の年金制度は「破綻させないために」、大きく三つの方向で見直しを重ねてきました。
① 給付水準の自動調整(もらえる額の伸びを抑える)
一つ目は、「もらえる年金額の伸び」を調整する仕組みです。
物価や現役世代の賃金が伸びても、年金の増え方を少し抑えることで、将来世代まで財源が持つようにコントロールする仕組みが組み込まれています。
ざっくり言えば、
- 経済が伸びるスピードより
- 年金が増えるスピードを、少しだけゆっくりにする
ことで、長い目で見たときの「年金財政の息切れ」を防ごうとする仕組みです。
② 負担(保険料)の調整
二つ目は、「払う側」の調整です。
一定の範囲で保険料率を引き上げたり、将来に向けて保険料率を固定したりすることで、「どのくらいまで負担してもらうか」のラインを決め、その枠内でやりくりする方向にかじを切ってきました。
つまり、
- 保険料だけを上げ続けるわけにもいかないので
- 「負担の上限」を決めたうえで
- その枠内で給付水準も調整する
というやり方です。
③ 支える側を増やす(働き手のすそ野を広げる)
三つ目が、先ほどのお神輿のたとえで触れた「支える側そのものを増やす」という方向です。
日本の公的年金は、
- 1階:全国民共通の老齢基礎年金
- 2階:会社員や公務員などが上乗せで入る老齢厚生年金
という2階建て構造になっています。
このうち、2階部分の老齢厚生年金について、最近は次のような方向で見直しが進んできました。
- 厚生年金に加入できる人の労働時間や勤務日数などの条件を緩め、パートや短時間労働の人も対象にしてきた
- いわゆる「第3号」の専業主婦・主夫も、働きに出れば厚生年金に入りやすい方向へルールを整えてきた
- 高齢者の継続雇用・再雇用を進め、高齢になってからも働ける人が厚生年金の保険料を払い続けられるようにしてきた
これらはすべて、若い正社員だけが担ぎ手だった状態から、いろいろな立場・世代の人が一緒になってお神輿を担ぐ状態に近づけていくための動きです。
📩 ねんきん定期便を「損得」でだけ見ないでほしい
ここまで制度の全体像を見てきたうえで、特に若い世代に伝えておきたいポイントがあります。
ねんきん定期便を見たときに、
- 「これだけしかもらえないなら、保険料を払うのは損だ」
- 「こんなに少ないなら、年金なんて全然あてにならない」
と感じてしまう人が少なくありません。
しかし、ここには大きな誤解があります。
「ねんきん定期便」の内容は、50歳を境に前と後とでは異なります。
50歳未満の人は現時点で納めている保険料に対する年金の予測額しかわかりません。
一方、50歳以上になると、今の納付が60歳まで続いた場合に受け取れる年金額が書かれているため、リタイア後の生活をより具体的に検討できます。
言い換えると、若い人のねんきん定期便には
- これから先、保険料を納める期間
- 今後の働き方や加入状況
といった、まだ起きていない将来分は、一切含まれていません。
「これからも納め続けたら」の数字は、あえて出していない
「それなら、65歳までずっと今と同じように納め続けた場合の見込み額を、最初から示してくれればいいのに」と感じる方もいるかもしれません。
ただ、国の立場からすると、まだ納めていない将来の保険料を前提に、「あなたは65歳にはこれだけもらえます」と書いてしまうことには大きなリスクがあります。
- 途中で離職したり、無収入の期間ができたりするかもしれない
- 働き方が変わって、厚生年金から国民年金だけになるかもしれない
- 法改正で制度の枠組みが変わるかもしれない
こうした不確定要素が多い中で、「このままいけば、あなたは将来これだけもらえます」と国の機関が数字を出すと、あたかもそれが「約束された金額」のように受け取られてしまいます。
もしその通りにならなかったとき、「国がこう書いていたのに話が違う」という別の不信感を生むおそれがあります。
だからこそ、ねんきん定期便では、「これまでに実際に納めた保険料にもとづいて計算できる範囲」に限定して数字を出し、「将来納めるかどうか分からない保険料」まで織り込んだ数字は、あえて出していません。
本当は国としても将来のイメージを示したい気持ちはあるはずですが、受取額について誤解を招くおそれが高いため、やりたくても出来ない領域だと考えると分かりやすいと思います。
続けて納めれば、受取額は当然増えていく
ここで誤解してほしくないのは、ねんきん定期便の数字が「一生変わらない確定額」ではないということです。
年金は、「何年・何か月保険料を納めたか」によって、受け取れる額が変わります。
国民年金なら、20歳から60歳までの40年間(480か月)納めたときが「満額」であり、納めた月数が少ないほど、その割合に応じて受け取る額は少なくなります。
ねんきん定期便が示しているのは、「いままでに納めた月数」だけで計算した現時点の途中経過であって、
- これから先も保険料を納め続けていけば、その分だけ将来の年金額は積み上がっていく
- 若いうちに見た「少ない数字」が、そのままずっと続くわけではない
ということを、ぜひ知っておいてほしいところです。
ねんきん定期便の数字は、年金制度全体の「価値」や「安心度」を決めているわけでもなく、自分が65歳から一生もらえる「最終的な額」を約束しているわけでもありません。
あくまで「これまで納めた分をもとにした、いま時点の途中経過」として受け止めたうえで、「これからの働き方」と「自分での備え」を考える材料にしてもらえると、見え方が少し変わってくるはずです。
🔜 この先、何を見ていけばいいのか
「年金は破綻しないのか?」という不安に対して、この文章で伝えたかったポイントをまとめると、次の通りです。
- 年金は「貯金」ではなく、「人生のリスクに備える保険」であり、だからこそ「年金保険料」を納めている
- 日本の年金は、自分で積み立てる方式ではなく、「今の現役世代が高齢世代を支える賦課方式」で動いている
- 260兆円の年金積立金は、「本体の原資」ではなく、人口や景気の変化に備えるための大きなクッションとして蓄えられてきたもの
- 多くの国ではこうした巨大な積立金は持たず、賦課方式だけで運営しているケースが多い中で、日本は賦課方式に加えて大きな緩衝材を持つ少し特殊な国になっている
- 少子高齢化の中で、給付水準・負担水準・働き手の範囲を見直し、「お神輿の担ぎ手」を若者だけから多様な世代・立場の人へと広げてきている
- ねんきん定期便が示しているのは、あくまで「今まで納めた分にもとづく途中経過」であり、「これから納めていく分」を含めれば、将来の受取額は着実に増えていく仕組みになっている
結論
日本の公的年金は、何も手を打たなければ人口の変化に耐えられず行き詰まりますが、そうならない前提に立って給付・負担・働き手の範囲を調整しながら、「制度を壊さずに続ける」方向で設計されています。
「どうせ破綻するから払わない」と考える人が増えること自体が、保険料の不足を招き、かえって制度を弱めてしまいます。
一人ひとりの不信感が積み重なるほど、「破綻してしまうかもしれない」という予言を、自分たちで現実に近づけてしまう面があることも、頭の片すみに置いておきたいところです。
だからこそ、「自分の時には一円も出ない」という意味での破綻を心配するより、
「どのくらいの水準まで維持されるのか」と「自分で何を足すか」を考えていくことが、現実的な向き合い方になるのではないかと思います。
そのうえで、この先はより具体的に、
- 全国民共通の1階部分である老齢基礎年金
- 会社員や公務員などの2階部分である老齢厚生年金
- 受け取り方の工夫である繰り下げや、1階部分を自分で少し増やす付加年金
といったテーマで、「年金」について考えていこうと思います。


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